このコーナーでは、ポンプにまつわる様々な「専門用語」にスポットを当て、イワキ流のノウハウをたっぷり交えつつ、楽しく軽やかに解説します。今まで「なんとなく」使っていた業界の方はもちろん、専門知識ゼロでもわかる楽しい用語解説を目指しつつ、クスッと笑える「今日の一句」づくりに力を注いでおります。

今回の用語は>>>>> NPSHr(エヌピーエスエイチアール)

【NPSHr】
「Net Positive Suction Head required」の頭文字をとったもの。日本語では「必要吸込みヘッド」。ポンプのある運転状態において、キャビテーションによるポンプの効率低下を避けるために最低限必要な吸込圧力(揚程)である。配管条件や液性とは無関係に、それぞれのポンプ固有の値であり、ポンプ選定と配管設計に極めて重要なパラメータ。

NPSHrとは何か? ものすごく簡単に言ってしまうと、「ポンプをご機嫌に動かすための最低条件」です。もっと言ってしまうと、NPSHrを満たさない吸込み条件だと、最終的にはポンプを壊してしまいます。そんなことになったら一大事ですから、ポンプマンたちにとって、NPSHrを正確に把握することは、とても重要なことだとされています。

NPSHrを理解するためには、その前にわかっておきたいキーワードは、以下のふたつ。

  • 飽和蒸気圧
  • キャビテーション

いずれも「ぽんなる用語第6回」で詳しく説明していますが、サクッと復習しておきましょう。

「飽和蒸気圧」とは、読んで字の如く「いっぱいいっぱいになっている水蒸気圧」のことです。水は放っておけば勝手に水蒸気になっていきますが、「いやー、もうこれ以上、蒸発できないっス!」と、水がギブアップすると同時に、空気側の方でも「もう、これ以上水蒸気になってもらっても、受け止められないっすからね!勘弁してくださいよ」と白旗を揚げる。この双方のバランスがびたっとあったときの値が飽和蒸気圧です。

これは、水の気相と液相の相平衡があらかじめ決まっているために起こる現象なのですが、なぜ決まっているのかは神のみぞ知る、自然界の法則ということで、さらっと理解してしまいましょう。

飽和蒸気圧は、温度と気圧の関係で変化を起こします。通常水は100℃で沸騰します。

山の頂上や飛んでる飛行機の中など、高度が高く気圧が低いところでは、水の沸点は下がります。例えば富士山であれば86~88℃くらいでグラグラと沸騰します。まぁ、飛行機の中で出されるカップラーメンは一工夫されているとか…。

余計な事ついでにもうひとつ言うと、「沸騰」というのは、水の分子運動が周囲の圧力を超過し、水蒸気という気体に変化していることです。温度を上げなくても気圧を低くすれば、水は沸騰するのです。

さて、もうひとつのキーワード「キャビテーション」は、ポンプの中が飽和水蒸気圧よりも低くなった時、発生した気体によってポンプ内部が「泡パンチ」を喰らっている状態をさします。

「顔はヤバいよ、ボディにしな」は。とあるTVドラマで有名になったセリフですが(平成生まれの若い方は知らないかもしれませんね)、気体が繰り出すパンチなど、大した破壊力を持たないようなイメージですが、地味なパンチも続けて浴びれば致命傷。最悪ポンプが破損することもあるのです。

大事なポンプ、そんな痛手を与えるわけにはいかない!

これはポンプマンなら誰も思うことですが、そのための防御の指針というか、「絶対超えてはならない一線」が、今回の主役、NPSHr なのです。

次のグラフは、うずまきポンプの基本性能を表した「HQカーブ」または「HQ曲線」と呼ばれるものです。

Hは揚程(Height)、Qは流量(Quantity)を意味し、この2つが交わる点が「仕様点」。つまり、ポンプが超ごきげんに動く条件であることを意味します。だって、条件がピッタリなんですから、使う方も使われる方も気分よく働けますよね。

しかし、仕様点における吸込み条件のギリギリでポンプを選ぶと、どんなことが起こるのでしょうか?

HQ曲線の説明イラスト

たとえば、2mの吸い込み=NPSHr が必要なのにもかかわらず、それよりも低い圧力しかなかったら、ポンプは吸い込むことができません。それでもムリに「ちゅーちゅー」と吸い続けると、吸込み不良からキャビテーション空運転につながり、ポンプ内部に相当なダメージを与えることにもなりかねません。

反対にNPSHr が満足されている場合でも、最高流量に近いと、別の問題が発生します。ジャンジャン液体を出せるので、ポンプは楽できるのでは?なんて思ったら大間違い。吸いすぎちゃうのも問題で、流量が多くなり過ぎると、ポンプに引き込む力が大きく必要になるため、これまで充分だった押し込み揚程(圧力)が足りなくなり、キャビテーションが起こる可能性がぐっと高くなるのです。

入って来ないものは出せない。入りすぎてもちゃんと出せない。これがポンプの宿命です。

でも、持てる力の範囲内ならば、ちゃんと吸って、ちゃんと出せる。これが本来のポンプの姿です。

ポンプにオーバーワークさせないためにも、最低流量、最高流量をしっかりと把握し、「どの範囲で使うのがベストか」を考え、提案して行くのが、ポンプマンのミッションです。

そのための重要ポイントであるNPSHrについては、きちんと理解しマスターしておくべきでしょう。

いずれにせよ、ポンプにあっていない環境で働かせるのが、そもそもの間違いのもと。人間だってポンプだって、自分の力や才能と相手のニーズがぴたっとマッチしてこそ、気持ちよく働けるし、良い仕事もできるのです。

今日の一句

P  ポンプがお役に立てるよに
S  仕様点と
H  必要揚程をしっかり把握すべきで
r  あーる
(おそまつ!)

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