このコーナーでは、ポンプにまつわる様々な「専門用語」にスポットを当て、イワキ流のノウハウをたっぷり交えつつ、楽しく軽やかに解説します。今まで「なんとなく」使っていた業界の方はもちろん、専門知識ゼロでもわかる楽しい用語解説を目指しつつ、クスッと笑える「今日の一句」づくりに力を注いでおります。

今回の用語は>>>>>空(カラ)運転 (dry running) & ヒートショック (heat shock)

【空運転】
ポンプにおける空運転とは、液体を入れない状態で作動させること。水分がない状態で回転させると、内部に摩擦熱が生じ、軸受け等を破損する恐れがある。

【ヒートショック】
急激な温度変化によってポンプ内部にヒビが入ったり割れたりすること。空運転により発熱してしまったポンプに、冷めるのを待たずに水など冷たい溶液を入れると、急激な温度変化に耐えられず、ポンプ内部が破損してしまうことをいう。

人間、たまには「空元気」も必要です。カラ元気を振りまいているうちに、いつしか本当の元気になった・・・なんて話も良く聞きますカラ。

でも、ポンプの「空(カラ)運転」は御法度中の御法度。特に「うず巻きマグネットポンプ」の場合、ポンプそのものを「秒殺」するほどの破壊力があるので、要注意です。

では、改めて「空運転」とはなんでしょう?

「空運転」とは、ポンプの内部に液体が入っていない状態で、作動させてしまうことをいいます。別の言い方をすると、液体の代わりに「空気」が入っている状態で、ポンプを回転させることです。

空運転の説明イラスト

タンクの中の液を全部出し切っても、なお、ポンプを運転し続けたり、吸い込み、もしくは吐出バルブを締めたままで運転してしまうと、「空運転」という現象が起こります。

吸込み締切運転
吸い込み締切運転の説明イラスト

吸込み側の締切運転はキャビテーションが直ちに発生するため、マグネットポンプに限らずどんな種類のポンプでも厳禁です。

出締切運転
吐出締切運転の説明イラスト

吐出側のバルブを締切った状態での運転は、ポンプ内部の摺動部の発熱や、流体摩擦による発熱が蓄積されます。そのため沸点の低い溶剤などでは沸騰して、部分的な空運転が発生します。

そもそもポンプというものは、液体を吸ったり出したりするモノですから、「液体がないカラっからの状態」で動くようには作られておりません。ですから、空運転がポンプにとってどんなに酷な状態なのか・・・ポンプの気持ちになって考えてみたいと思います。

ポンプ、スイッチ、オーン! さぁ、いつものように、吸ったり吐いたりして、皆さまのお役に立ちましょう! と、元気よくポンプ内部のインペラ(羽根車)が回り始めました。
ところが、いつものように周りに液体がないっ! あるのはただ空気だけ。

その時のインペラさんの心境はいかに。さぞ、慌てふためいていることでしょう。「ヤバいよ、ヤバいよ」と、言っているかもしれません(笑)。

でも、インペラ本人には、回転を止めることはできません。何せスイッチが入っちゃっているのですから、回り続けるしかないのです。

ぐるぐるとかき回されるうちに、インペラを回している軸受け部分(スピンドルとベアリングなど)に摩擦熱が発生し、ポンプの中がどんどん熱くなっていきます。

これはドライ状態での摩擦係数がウェットに対して、とても高いのと同時に、水冷に比べ空冷では冷却効果が極端に低下するためです。たとえば、サウナから出た後、水風呂に入ればスッキリしますが、うちわで扇(あお)ぐだけじゃ、いつまでも汗が引きませんよね(#^^#)

もちろん、ポンプの内部に使われている素材や構造による違いはありますが、ものの数十秒で温度は一気に上ってしまいます。

この状態を継続していると、熱に耐えられなくなった軸受け部分がドロドロと溶け出していくか、熱変形して回転精度が保てなくなり、いずれにしてもポンプ的には「ご臨終です(-人-)」・・・・・といった悲しい最後を迎えることになるのです。

ベアリング・スピンドル・インペラ説明イラスト

そんな理由から各メーカー様も、「空運転は厳禁です」と口を酸っぱくして言っているわけです。

さらに事態を悪化させる「ヒートショック」にご用心

誰だってうっかりミスをおかすことはあります。人間だもの…。
でも、ミスを犯したとき「どのようにリカバリーするか」で、その人の底力が見えることも事実です。

うっかりポンプを空運転させてしまった時、あなたならどうしますか?
そっと止めて、知らんぷり? 空運転自体をなかったことにする・・・・・・。

「えー、ひど〜い」「人としてどうなのぉ〜」なんて声が聞こえてきそうですが、ことポンプに関しては、これもある意味正解。まぁ、ポンプの状態にもよりますが、すぐに気づいて回転を止め、熱が冷めるのを静かに待つというのは、正しい対処方法なのです。

コレに対して、「すぐに液体を入れてなんとかする」という、人道的にはイケテるように思われがちな対処法が、ポンプ業界では最低最悪な処置方法です。

空運転で温度も圧力も急上昇中のところに、冷たい液体(たとえば水とか)が急に入って来たら、それこそポンプの中はびっくり仰天。

想定外の温度変化にいろんなものが耐えられなくなり、あっちがパリン。こっちもパリン・・・。ポンプ内部にクラックが入りまくり、使いものにならない状態。それを「ヒートショック」と呼ぶのです。

ちなみに、ヒートショックは、「冬の入浴中などに温度の急激な変化で血圧が大きく変動することで起こる、心筋梗塞や脳梗塞等と同様の被害」などと言われていますが、急激な温度変化に弱いのは、人もポンプも同じだということなのでしょう。

「オレとしたことが、空運転をしてしまった!」というショックも相当なものだと思いますが、どうぞ落ち着いて対処してください。

くれぐれもヒートショックという「とどめの一撃」をポンプに喰らわすことだけは避けていただきたいと思います。

ヒートショックイメージ説明イラスト

特にセラミックスピンドルは、このように急激な温度変化により十中八九割れてしまいます。さらに粉々にくだけ散ったセラミックの破片が、回り続けるインペラによって配管の隅々まで飛び散り、大惨事を招く・・・なんてことも考えられますので、くれぐれもご注意ください!!

エンジニアより一言

温度が急上昇するのもヒートショックですが、ここでは急激な低下のみを問題としています。セラミックなどの脆性材料は焼結(粉体を焼き固める)という方法で製造されます。これらは圧縮には非常に強いのですが引張に弱い特徴があり、急冷時の熱収縮により部材表面に引張応力が働いてクラックが発生することがあります。

空運転の原因のほとんどは人為的ミスです。そして、そのミスを減らして行けるのが、技術の力であり使命だと思っています。

ですから、イワキの中型・大型マネグネットポンプには、空運転時でも発熱を極力抑えるように接触摩擦面の形状を変えたり、あらかじめ接触しにくくさせたりしています。また、高温化した状態の熱湯や蒸気などを軸受部から強制的に排出させる工夫をしています。

さらに、より安全な薬液移送をサポートする「空運転防止装置DR」などのアクセサリーも取り揃えておりますので、どうぞお気軽にご相談ください(@^^)/~~~

今日の一句

人もポンプも正しく使えば元気で長持ち。
運転前の確認が、健康長寿のカギとなる。

この記事の関連製品

関連記事

製品に関する情報

カタログ、資料ダウンロード

製品資料データ、カタログ、取扱説明書を会員サイトからダウンロードできます。

イワキのサポート
よくあるご質問、各種お問い合わせ、製品メンテンナンス動画など、イワキ製品のサポートについてご紹介します。