このコーナーでは、ポンプにまつわる様々な「専門用語」にスポットを当て、イワキ流のノウハウをたっぷり交えながら、楽しく軽やかに解説します。今まで「なんとなく」使っていた業界の方はもちろん、専門知識ゼロでもわかる楽しい用語解説を目指しつつ、クスッと笑える「今日の一句」づくりにも、力を注いでおります。

今回の用語は>>>>> 脱調(マグネットカップリングの脱調)

【脱調】(マグネットカップリングの脱調:Magnetic Decoupling)
駆動マグネットと従動マグネットが同期していない運転状態のこと。通常運転では、それぞれのマグネットは同期回転するが、過剰な負荷がポンプ側に作用すると、駆動マグネットに従動マグネットが追従できなくなる状態をさす。

マグネット駆動のポンプを使う上で、気をつけたいことのひとつが「脱調」です。「だっちょう」という言葉の響きから、違うことを想像してしまう方もたくさんいらっしゃると思いますが、そっちの方でも、「だっちゅーの(古っ!)」でもありません。「調子」が「脱する」と書いて脱調です。「脱調」に抵抗のある人はちょっとすまして「マグネットカップリングの離脱」とか「スリップ」と言ったりもします。

シールレス構造で液洩れしないのが特長のマグネットポンプは、「マグネットキャン」と「駆動マグネット」のSとN、2極の磁石の引き合う力と、反発する力を利用して、インペラ(羽根車)を回転させ、液体を吸ったり出したりしているのはご存知の通りです。

SとN、2極の磁石の引き合う力と、反発する力…。好きな人と嫌いな人が交互にやってくる状態とでも言えばわかりやすいでしょうか。「この人は好き〜。もっとくっついちゃお〜」「わー、イヤ〜、近づかないでぇ〜」を、ものすごい高速で繰り返し、パワフルに回転し続けているのです。

ご機嫌よく動いているときはよいのですが、一瞬先、何が起こるかわからないのは、人もポンプも同じです。インバータ設定を誤り急加速起動や許容回転数を超過したり、異物が混入し、インペラに「くっ!」と挟まって回転が止まってしまったときこそ、「魔の刻」の始まりです。

外にあるモーターに固定された駆動マグネットは、ポンプ内に何が起こっているかなど知るすべもないので、「オレはオレの仕事をするだけさぁ〜」と、ぶんぶんと回転し続けます。でも、インペラは「くっ!」となって身動きが取れない・・・にもかかわらず、容赦なく回転させようと、ものすごい力がかかる・・・

さぁ、どうなる? マグネットポンプ?!

磁石たちにしてみれば「ん? 一体何が起きてるの?」まさに「聞いてないよォ!」というリアクションをしているのではと、想像も難くないのですが、その結果、モーターのパワーに堪え兼ねて、SとNで仲良く引き合っていた磁石同士が離れてしまうのです。

ああ、なんという切なさ。今まで健気に、あうんの呼吸でシゴトをしていたパートナー同士が、突然の別れを余儀なくされるなんて・・・。この「磁石が互いに離れてしまう状態」、これが「脱調」です。イメージ、暴走し過ぎでしょうか。

でも、こうしてお互いの手を離すことによって、これ以上異物がポンプ内に入ることを防ぎ、大惨事になることを未然に防いでいるのです。車に例えるなら、クラッチが外れちゃった状態ですね。自らの手を離すことによって、ポンプの保護にも大いに役立っているのです。そう考えると、磁石たちがさらに健気に思えてきます。

脱調が起こる原因を整理しますと、

  • 異物によるインペラロック
  • 液比重や粘度の増加
  • ポンプ内の破損
  • 吐出バルブ開による急激な起動や過大流量(オーバーフィーディング)
  • インバータによる増速運転や急加速
  • 限界を超えた温度や腐食による磁力の低下

などが考えられます。

一度脱調が起こってしまっても、一度ポンプを停止し異物を取り除けば、ポンプは見事復活を果たせます。しかし、度重なる脱調が起こると、健気だった磁石も「わぉ~、またかよ~」と、だんだんと人生斜めに見るようになる・・・かどうかはわかりませんが、次第に磁力が弱まって減磁していきます。ついには簡単に手を離すようになってしまいポンプは送液できなくなります。

頻繁に脱調が起こるようなら、脱調原因を要チェック。メンテナンスもしくはマグネットの交換が必要になります。

エンジニアより一言

右の図はマグネットカップリング部分の断面イメージを示しています。駆動マグネットと従動マグネットにはそれぞれN極とS極が交互に、等間隔に配置されています。

N極とS極は互いに引き合うので、静止状態ではN極とS極が向かい合った位置関係になります。この状態はトルクが全く発生しない「ニュートラル」な位置となります。

ニュートラル マグネットカップリング
次に運転中の状態を見ると、駆動マグネットが従動マグネットに対して回転方向に角度:θを持つようになります。このとき、駆動マグネットのN極は従動マグネットのS極を引っ張る(引力)と同時にN極を押しています(反発力)。

このようにして、駆動マグネットから従動マグネットへとトルクが伝達されます。

トルク伝達 マグネットカップリング

なお、角度:θと発生するトルクとの間には相関があり、駆動マグネットのN極が従動マグネットのS極とN極の中間付近に位置した時(θ max)、最大のトルクを発生します。θ maxを超えると急激に伝達トルクが低下するので脱調を起こします。脱調状態でもトルクは僅かに発生しますのでインペラは停止せず、送液できるレベルではありませんがゆっくりと回転しています。

また、脱調状態ではお互いの磁石表面に相手磁石による交番磁界が高速で加わります。これはIH調理器と同じ原理の渦電流発熱(エディカレントロス)を起こすので、磁石を加熱されて磁力が低下して、脱調しやすくなります。でもこの場合の減磁は過熱によるものなので放置冷却することで、脱調時間や磁石材質により異なりますが、大半は回復します。

今日の一句

「脱調」のおかげで防げるポンプの惨事
「聞いてないよ」と言いつつも手を離す 健気な磁石がポンプを守る
脱調も放置し冷ませば元気回復

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